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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)7049号 判決 1968年5月14日

原告

田中正男

ほか一名

被告

小川釣

ほか三名

主文

一、被告小川釣、同金林得奉は、各自、原告田中正男に対し金一、六八八、三四八円、同田中フジコに対し金一、五七一、七四四円および右金員に対する昭和四二年一月一五日からそれぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

一、原告らの被告小川釣、同金林得奉に対するその余の請求および被告大建興産株式会社および同協和電設株式会社に対する各請求はいずれもこれを棄却する。

一、訴訟費用中、原告両名と被告小川釣、同金林得奉との間に生じたものはこれを三分しその一を原告らの、その余を右被告両名の各連帯負担とし、原告両名とその余の被告らとの間に生じたものは原告両名の連帯負担とする。

一、この判決の第一項は仮りに執行することができる。

一、但し、被告小川釣、同金林得奉において連帯して、原告田中正男、同田中フジコに対し金一、二〇〇、〇〇〇円宛の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実及び理由

第一原告らの申立

「被告らは、各自、原告田中正男に対し金二、六三七、五七九円、原告田中フジコに対し金二、五〇八、〇六九円および右金員に対する昭和四二年一月一五日(本件訴状送達の日の翌日)から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員(民法所定の遅延損害金)を支払え」との判決ならびに仮執行の宣言。

第二争いのない事実

一、本件事故発生

とき 昭和四〇年四月三日午後四時二〇分ごろ

ところ 大阪市都島区内代町二丁目二番地先道路上

事故車 大型貨物自動車(大一も五〇四七号)

運転者 被告小川

死亡者 訴外亡田中光夫(当時三才)

態様 亡光夫は、右道路を西進してきた事故車に轢過され死亡した。

二、被告金林の事故車の運行供用と被告小川の使用(右被告両名の関係で)。被告金林は、被告小川の使用者で、かつ、事故車を自己のための運行の用に供していたものであり、本件事故は被告小川が、被告金林の業務のために事故車を運転している際に発生した。

三、損益相殺

原告らは、被告金林より金一、〇〇〇、〇〇〇円の支払をうけ、これを後記の損害につき各五〇〇、〇〇〇円宛充当した。

第三争点

(原告らの主張)

一、責任原因

被告らは、各自、左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

(一) 被告小川

根拠 民法七〇九条

該当事実 被告小川には、左のとおり前側方不注意、積載超過の過失があつた。

(1) 被告小川は、前記道路を西進中、進路前方の左右道路上に軽四輪貨物自動車が駐車し通行可能な幅員が極めて狭隘な場所に差しかかり、一旦停車した後発進したのであるが、その際、更に進路左前方八・八メートルの路上に盛土がありその盛土の上に亡光夫(三才)が居るのを認めたものである。

(2) ところで、亡光夫の如き幼児は大人に比して弁識能力が乏しく車両の通行に充分配慮することなく不測の行動に出ることが当然予測されるのであるから、かかる場合、自動車運転者たる者は、同人の動静に注意しつつ進行し事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに、被告小川はこれを怠り、最大積載量六屯の事故車(ダンプカー)に一〇・六四〇屯もの土を積載し道路右(北)側に駐車している車両との接触を避けることのみに注意を奪われたまま時速三ないし五キロメートルの速度で進行したため本件事故が発生した。

(二) 被告金林

根拠 自賠法三条、民法七一五条

該当事実 前記第二の一、二の事実および前記被告小川の過失

(三) 被告大建興産、被告協和電設

根拠 民法七一五条、自賠法三条

該当事実 左のとおり。

(1) 被告協和電設は、日本電信電話公社(以下、電々公社と略す)から電話線の設置、架設等の事業を請負いこれを施行しているものであるが、その事業の一部を被告大建興産に請負わせ、被告大建興産は更に被告金林に下請せしめていたものであり、その関係を具体的に述べれば次のとおりである。

(2) 被告協和電設は、昭和三九年一一月五日、電々公社との間に本外―関目局間中継線増設工事に関する請負工事契約を結んだものであり、その工事内容は道路を幅約二メートル、深さ約一・五メートル位掘さくして中継線を埋設し、その掘さくした道路を再び交通の用に供せられるよう他所から運んできた土で修復し原状に回復することであつたが、同被告はその工事を直接行わず、同被告の指揮監督のもとに行うことを条件として被告大建興産に下請させたものである。

(3) しかるところ、被告大建興産は右被告協和電設から下請した工事全部を自から行わないでそのうち原状回復用の土を四条畷方面から現場まで運搬する仕事を、更に、相被告京阪資材こと金林に再下請せしめていたのであるが、右工事に使用した砂利、砂等の対価は五、六〇〇、〇〇〇円に達し(これは、被告大建興産が被告協和電設から下請した工事代金一六、〇〇〇、〇〇〇円の三分の一以上に相当する)、右砂利、砂の搬入は右請負工事全体からみても、重要な部分を占めるものであつた。

(4) しかして、被告金林は右により下請した土の運搬をその被用者である被告小川をして行わせていたもので、右工事は昭和四〇年九月一〇日に完成したのであるが、本件事故はその途中の同年四月三日、被告小川が右業務に従事中に発生したものであり、右事故は同被告の前記の如き過失に基因するものであつた。

(5) ところで、被告協和電設、同大建興産間の請負契約書の第一一条によると、工事材料は工事現場に搬入する前に品質検査を受けるものとされているが、右検査を受けるためには被告金林が搬入する砂利、砂を置いてある場所に赴き検査を受ける必要があり、その検査の結果被告金林が搬入せんとする砂利、砂が合格したとするも、その合格した砂利、砂そのものが搬入されるかどうかについても―万一にも替玉が搬入されることのないよう―監督しなければならないものである。してみると、被告大建興産は被告金林およびその使用人である被告小川が被告金林保有の事故車で品質検査に合格した砂利、砂を置場から積んで工事現場に搬入するまでその運搬について指揮監督をしなければならないものであり、被告協和電設および被告大建興産は事故車が砂利、砂を運搬することについて請負事業の遂行上運行に依る利益を有するものと云うべきである。

(6) また、本件の砂利、砂の搬入は、被告金林が事故車の如き自動車で一定の期間内に一定の品質検査に合格する砂利、砂等を被告大建興産の指定する場所へ搬入することを約し、その搬入した結果(搬入数量)に応じ被告大建興産から報酬を受けることを約した契約によつて行われたものと解することができ、右契約は請負契約かそうでなくとも請負契約と売買契約の混合契約または請負類似の無名契約と云うべきものであつて、何れにしても、単純なる売買契約と目さるべきものではない。

しかして、右契約の履行については、被告協和電設および被告大建興産が、前者は間接に後者は直接に被告金林を、被告金林は被告小川をそれぞれ指揮監督することになつていたものと解され、右契約の履行は外形上被告協和電設および被告大建興産が請負つていた前記中継線増設土木工事の遂行と認められるものである。

(7) しかも、被告協和電設は、被告大建興産を使用して前記事業を遂行し、当初の契約では三〇、二〇〇、〇〇〇円、追加増額金として一四、一〇〇、〇〇〇円の収益を得ているが、これによつて、自己の活動範囲を拡張してそれだけ多くの利益を収めたのであり、被告大建興産も被告金林を使用して前記の如く本件土木工事に絶対必要でしかも全体の三分の一以上のウエイトを占める工事用の材料の調達をなし前記請負工事を遂行し自己の活動範囲を拡張しそれだけ多くの利益を収めているのであるから、その被告金林の使用人である被告小川が右工事用材である砂の運搬中に惹起した本件事故について、公平の観念上、報償責任としての損害賠償責任を負うべきである。

(8) 以上によつて明らかな如く、被告協和電設は被告大建興産を通じ、被告大建興産は被告金林を通じ、被告金林は直接に被告小川を指揮監督する立場にあり、かつ、事故車の運行につき支配と利益を有していたものであるから、被告協和電設、同大建興産は、同金林とともに、被告小川の使用者として民法七一五条の責任を負うべきであり、そうでなくとも事故車の運行供用者として自賠法三条の責任を免れない。

およそ、他人を使用して事業を営む者はこれによつて自己の活動範囲を拡張してそれだけ多くの利益を収めるのであるから、被用者がその事業の執行について他人に損害を加えたときには被用者自身はもとより使用者もまたその損害を賠償すべき義務がある。

二、損害の発生

(一) 逸失利益

亡光夫は、本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。

右算定の根拠は次のとおり。

(1) 職業

勤労所得者。

(2) 収入

年収三八六、三三一円(労働省賃金構造基本統計調査)。

(3) 生活費

右収入の二分の一。

(4) 純収益

右(2)と(3)の差額、年額一九三、一六五円

(5) 就労可能年数

事故当時の年令 三才

亡光夫は、その余命の範囲内で二〇才から六〇才まで四〇年間は就労可能。

(6) 逸失利益額

亡光夫の右就労可能期間中の逸失利益の事故時における現価は金三、〇一六、〇七八円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による)。

一九三、一六五円×一五・六一四=三、〇一六、〇七八円

(二) 葬祭関係費 一二九、五六〇円

亡光夫の葬儀に関し要した費用は右のとおりであり、原告正男がこれを負担した。

(三) 精神的損害(慰謝料)

原告正男 一、〇〇〇、〇〇〇円

原告フジコ 一、〇〇〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 亡光夫は、原告正男が四五才をすぎて始めて出来た唯一人の子供であり、比較的高年になつて始めて一人子を得た原告らの喜びは一入であつた。

(2) しかるに、その一人子を僅か三才で不慮の事故によつて奪われた原告らの悲嘆は、同人を得た時の善びに逆比例し、事故後半年間は失望のあまり虚脱状態になり仕事も手につかなかつたが、その悲しみは深く、終生悲嘆にくれて過さざるを得ない。

(四) 弁護士費用

原告正男 五〇〇、〇〇〇円

原告フジコ 五〇〇、〇〇〇円

原告らが本訴代理人たる弁護士に支払うべき費用は金五〇〇、〇〇〇円宛である。

(五) 権利の承継

原告らは、亡光夫の父母として亡光夫の前記(一)の損害賠償請求権を二分の一宛相続した。

(被告小川、同金林の主張)

一、右被告らの無責

本件事故は、被告小川の過失に基因するものでないから被告らには責任がない。

二、原告らの請求の不当性

原告ら請求の弁護士費用は、本件事故による損害として当然請求し得べきものではない。原告らがかかる費用を支出したとしても慰謝料に含めて考慮されれば足るものであり、そうでなくとも原告らの請求額は高額に失し不当である。

三、過失相殺

仮りに、右被告らに損害賠償の責任があるとしても、原告らにも、当時三才の幼児であつた亡光夫を一人で放置しておいた点に父母としての監護義務を怠つた過失があり、右過失が本件事故発生の主たる原因であるから、賠償額の算定については充分斟酌さるべきである。

すなわち、事故現場の道路は幅員八・一メートルで道路の南側に高さ〇・九メートル、長さ三・八メートルの壁土(粘土)が盛り上げて置かれておりその少し手前(東)の右(北)側路上に車が駐車しており、被告小川はこれを避けて通るため一且停止して右駐車車両に対し少し前に行くよう注意し、その際、左前方約九メートルの前記盛土上に遊んでいる亡光夫の姿を認めていたのであるが、同被告はまさか亡光夫が右盛土上から道路に転び落ちるとは考えられなかつたため、時速約三キロメートル位で徐行運転しながら進行したところ、事故車の前輪が右盛土の横を通り過ぎんとした時運悪く亡光夫が路上に転び落ちてきたためその頭部を左前車輪で轢き死亡せしめたものである。

この場合、事故防止の唯一の方法は亡光夫を道路脇の安全な場所に待避せしめることであろうが、現在の交通事情の下において自動車運転者にそこまでの注意義務が課せられているとは考えられない。むしろ、幼児に対し監督責任を負う保護者においてなすべきことであり、保護者において右責任を尽しておれば子供の事故は防止し得る筈である。

本件においても、事故現場は相当数の車が通り危険なところであるから、亡光夫の両親である原告らが、僅か三才の幼児を独りで道路上の而も狭い盛土の上で遊ばせていたことは、保護者として道交法一四条に違反するのみならず、監護義務にも違反するものであり過失相殺は免れない。

(被告大建興産の主張)

被告金林は、被告大建興産の下請業者ではない。

被告大建興産は、被告金林に原告ら主張の如き工事を下請せしめたことはなく、被告大建興産は、被告金林から工事施行にあたつて必要となる砂、砂利等をその都度、現場渡しで買入れていたにすぎないから、被告大建興産が本件事故につき法律上の責任を負うべき理由は全くない。

(被告協和電設の主張)

一、被告協和電設は、電々公社近畿電気通信局より受註した本外―関目局間中継線増設土木工事に関し、被告大建興産との間に昭和三九年一一月五日、被告協和電設の指示する図面および仕様書にもとずき右工事を完成する旨の下請契約を締結したが、その際、右下請契約による権利義務はこれを第三者に委任しもしくは再下請させてはならないことを両者間において確認した。しかして、右工事は、被告大建興産の直轄工事として施工され、翌四〇年九月一〇日これが完成を見たものである。

二、ところで、被告金林は、砂、砂利、栗石等の骨材の販売を業とする者であり、被告大建興産は上記土木工事施行に伴い埋戻し用の骨材を必要とするところから、右骨材を販売する被告京阪資材こと金林から工事現場または資材置場渡し契約をもつて購入し、品名、数量に従つて毎月資材代金を支払う約定であつた。

すなわち、被告金林は右契約にもとずき被告大建興産に対し完全に独立した地位をもつて現場または同被告の資材置場まで骨材を運搬のうえ販売契約を履行していたものであつて、被告大建興産において品種、数量の検収終了までは当該骨材は被告金林の所有に属するものであつた。

したがつて、被告金林がいかなる所からいかなる方法で骨材を採取、蒐集し、製作するかいかなる方法でこれを引渡場所まで運搬するかは被告金林自らの計算と責任において取捨実施するところであつて、被告大建興産が一々骨材の採取先や採取もしくは製作方法を特定したり、運搬方法について指図したり監督する等の契約上の権限もなくまた義務も負つていなかつたのである。

三、以上のとおりであるから、被告金林に対して指図、監督する契約上の権利も義務もない被告大建興産が民法七一五条の使用者責任を負うべき筋合はなく、したがつて、本件土木工事について元請負の地位にある被告協和電設が本件事故につき責任を負うべき立場にないことは極めて明白であり、原告らの被告協和電設に対する主張は事実関係を無視した謬論といわざるを得ない。

第四証拠 〔略〕

第五争点に対する判断

一、責任原因

被告小川、同金林らは左の理由により原告らに対し後記の損害を賠償すべき義務がある。

(一)  被告小川

根拠 民法七〇九条

該当事実 左のとおり。

(1) 事故発生の状況

(イ) 事故現場は、幅員約八・一メートルの直線道路であるが、事故当時右道路の南北両側に駐車車両があつた。

(ロ) 被告小川は、事故車を運転して右道路を西進してきて、右駐車車両の間を通過しようとしたのであるが、その間隔が狭くそのままでは通過し得なかつたので、道路北側に駐車していた軽四輪貨物自動車の運転者にこれを移動させるよう声をかけて一旦停止したが、その際、進路左前方約八・八メートルの地点にある盛土(壁土)の上で遊んでいる亡光夫(当時三才)を認めた。

(ハ) しかして、被告小川は前記軽四輪貨物自動車をやや北側へ移動せしめたうえ発進、進行したのであるが、右車両との接触を避けるべく、右後方にばかり注意していたため、前記盛土上から事故車の進路前方へ移動していた亡光夫に全く気づかず同人を轢死せしめた。

(〔証拠略〕)

(2) 被告小川の注意義務違反

右事実によれば、被告小川には前側方不注視の過失があつたものと認めるのが相当である。

(二)  被告金林

根拠 自賠法三条

該当事実 前出第二の一、二の事実(なお、右(一)参照)

(三)  被告協和電設、同大建興産

右被告両名については、原告ら主張の如き責任を負うべきものとは認め難い。その理由につき特記すべき事実は次のとおり。

(1) 被告協和電設は電気通信設備工事の請負等を業とする株式会社であり、被告大建興産は専ら被告協和電設の工事を下請施工していたものである。

(2) 被告金林は京阪資材の名称で砂やバラス等土建資材の運搬、販売を業とする者であり、本件事故当時、事故車を含むダンプカー三台を保有し、従業員としては被告小川ほか一、二名の者を使用していた。

(3) 被告協和電設は、昭和三九年一一月二日、電々公社との間に本外―関目局間中継線増設工事(土木)に関する請負契約を締結し、同月五日、被告大建興産との間に右工事に関しいわゆる下請契約を締結してこれを請負わせた。

(4) しかして、右工事には、道路を掘さくした後の埋戻し工事を伴うものであつたが、右埋戻し工事についても右と同様被告協和電設と被告大建興産との間に下請契約が締結され、実際の工事は被告大建興産において施工した。

(5) 尤も、右各工事の施工については被告協和電設は、電々公社から工事を請負つた際に指定される共通仕様書に従つて右工事を行うよう被告大建興産に指示しており、かつ、工事長ほか一、二名の職員を工事現場常駐させてその施工を指揮監督していたものである。

(6) ところで、被告大建興産は、右工事の施工に先立ち前記埋戻し工事に使用すべき山砂の見本を被告金林から取寄せて、これを右工事長に提出し、同人を経て電々公社の品質検査を受けた後、右埋戻し工事に使用する山砂を被告金林に納入さることとした。

(7) しかして、右埋戻し工事は、昭和四〇年一月ごろから同年六月ごろまでにわたつて行なわれたのであるが、その間、これに使用する山砂については、被告大建興産が工事の進展に応じその都度、前日ないし数日前に必要量を被告金林に指示して指定した砂置場ないし工事現場へ搬入せしめていた。

(8) 被告金林は、右指示を受ける都度、四条畷方面の砂販売業者から必要量の山砂を買受け、これをその使用人である被告小川らをして指定された場所へ運搬させていた。

(9) しかして、被告金林が搬入した山砂は車一台毎に、被告大建興産の係員が立合いのうえで指定の場所に降ろされ、かつ、納品伝票および受取書が授受されていたが、その代金は六トン車一台当り三、〇〇〇円位、月末締切り翌月一五日払の方法で被告大建興産から被告金林へ支払われていた。

(10) 被告金林が前記埋戻し工事期間中に被告大建興産に納入した山砂は、すべて四条畷方面の山で採取したもので、その量は金額にして二、五〇〇、〇〇〇ないし三、〇〇〇、〇〇〇円に相当するものであり、右金額は被告大建興産が被告協和電設から請負つた工事費全体の約一五パーセント位に相当するものであつた。

(11) なお、電々公社と被告協和電設との請負契約によれば前記山砂については工場現場に搬入する前に右公社の指定する者の品質検査を受けることとなつていたが、実際上は前示の如く工事着工前に見本を提示してその検査を受け、以後は、被告金林から山砂を受け取る際、被告大建興産の係員が立会い、かつ、時折、抜取り検査をするなどしていたのであるが、右公社においてもこの取扱を了承しており、被告協和電設および被告大建興産としては格別、山砂の購入先等について被告金林に対し指示、指定はしていなかつた。

(12) 被告金林は、事故前一、二年前より被告大建興産に砂利、砂等を納入していたが、特別、同被告より資金の援助を受けたようなこともなく、前記工事期間中、被告大建興産以外のところへも砂利、砂等を納入していたもので、同被告との間に専属的な取引関係はなく、被告協和電設との間には直接的な取引関係はなかつた。

(13) なお、被告金林は、右山砂の搬入以外には前記工事に関係しておらず、残土の搬出、その他の材料の運搬は被告大建興産が保有する車両で同被告自身がおこなつていた。

(〔証拠略〕)

(14) 以上の認定事実に照らし考えるに、被告大建興産が被告協和電設の指揮、監督の下に前記工事を下請施工していたことは原告ら主張のとおりであり、被告協和電設および被告大建興産が被告金林から納入される山砂の品質を検査すべき立場にあつたことは否定し得ないところであるが、そのことからは、直ちに、原告らの云うように被告大建興産が被告金林ないしその使用人である被告小川が行う山砂の運搬についてまでこれを指揮、監督すべき立場にあつたとは云い得ない。蓋し、山砂の品質検査自体は被告大建興産がこれを受領する際に行うことによつても充分その目的を達し得るものであり、当然にその運搬行為についての指揮、監督を伴うものではないからである。

(15) また、被告金林と被告大建興産との間には事故前一、二年前ごろから取引関係があり、前記工事にあたつても、被告金林から、たとえ、必要の都度注文されていたにせよ昭和四〇年一月ごろから同年六月ごろまでの間の約半年近い期間山砂が納入されていたことと被告金林が僅か三台の車と数人の従業員を使用して小規模な営業を営んでいるにすぎないことを考慮すると、被告大建興産がその取引上、被告金林に対し経済的には優越的地位にあつたことは否定し得ないであろうが、被告金林ないし被告小川が専ら被告大建興産への山砂の納入のみに従事していたものでないことは前示のとおりであり、他に、被告会社ないし被告小川が被告大建興産の一般的支配を受けこれに従属する立場にあつたと断定するに足る証拠はない。

(16) 結局、前示の如き各事実を考慮し本件全証拠を検討するも、被告協和電設および被告大建興産が被告金林ないし被告小川を直接、間接に指揮、監督すべき立場にあつたとは断定し得ず、事故車の運行についてもこれを管理、支配すべき地位にあつたとは認め難い。よつて、被告協和電設および被告大建興産に対する原告らの本訴請求はその余の判断に及ぶまでもなく理由がないと云わざるを得ない。

二、損害の発生

(一)  逸失利益

亡光夫は、本件事故のため左のとおり得べかりし利益を失つた。右算定の格拠は次のとおり。

(1) 職業

勤労所得者。(〔証拠略〕)

(2) 収入

月額二五、三〇〇円を下らぬものと認めるのが相当(日本統計年鑑四一年版三九八頁参照)。

(3) 生活費

右収入の二分の一。(〔証拠略〕)

(4) 純収益

右(2)と(3)の差額、月額一二、六五〇円。

(5) 就労可能年数

事故当時の年令 満三才。

亡光夫はその余命の範囲内で、事故時より一七年後の二〇才の時から六〇才まで四〇年間は就労し得たものと認めるのが相当。

(証拠、昭和四〇年度簡易生命表のほか(1)に同じ)

(6) 逸失利益額

亡光夫の右就労期間中の逸失利益の事故時における現価は金二、二〇三、八七七円(ホフマン式算定法により年五分の中間利息を控除、年毎年金現価率による。但し円未満切捨)を下らない。

一二、六五〇円×一二(二六・五九五二-一二・〇七六九)=二、二〇三、八七七円

(二)  葬祭関係費 一二九、五六〇円

原告正男主張のとおり。(〔証拠略〕)

(三)  精神的損害(慰謝料)

原告正男 一、〇〇〇、〇〇〇円

原告フジコ 一、〇〇〇、〇〇〇円

右算定につき特記すべき事実は原告ら主張のとおり。

(〔証拠略〕)

(四)  弁護士費用

原告正男 二〇〇、〇〇〇円

原告フジコ 二〇〇、〇〇〇円

原告らは、その主張の如き債務を負担したものと認められるが、本件事案の内容、審理の経過、前記損害額、に照らせば、本件事故による損害として賠償を求め得べきものは右のとおりと認めるのが相当である。

(証拠、日本弁護士連合会および大阪弁護士会各報酬規定、弁論の全趣旨)

なお、右費用の賠償を認むべき理由については大阪地裁昭和四一年五月三一日判決判例時報四六五号五二頁参照。

(五)  機利の承継

原告ら主張の前記(一)の損害賠償請求権を二分の一宛相続した(但し、円未満切捨)。

(証拠、前出(三)に同じ)

三、過失相殺

本件事故発生の状況は前示一の(一)のとおりであり、右事実によれば車両の通行が予想される前記道路に亡光夫を一人で遊ばせていた点において、同人の監護義務者たる原告らとしても充分な注意を尽していなかつたものと云うべきであり、損害賠償額の算定にあたつてはこれを原告側の過失として考慮するのが相当であるが、前記事故の態様、被告小川の過失の内容と危険責任、報償責任を基礎とする民事自動車事故賠償責任の理念に照らせば、過失相殺により原告らの前記損害賠償請求権の一〇分の一を減ずるのが相当である。

四、損益相殺

原告ら主張のとおり(争いがない)。

第六結論

被告金林および被告小川は、各自、原告正男に対し金一、六八八、三四八円(前記損害金すなわち逸失利益相続分一、一〇一、九三八円、葬祭費一二九、五六〇円、慰謝料一、〇〇〇、〇〇〇円、弁護士費用二〇〇、〇〇〇円合計二、四三一、四九八円を前示割合で過失相殺した二、一八八、三四八円より損益相殺額五〇〇、〇〇〇円を控除したもの)、原告フジコに対し金一、五七一、七四四円(その内訳および計算方法は葬祭費を除き原告正男に同じ)および右各金員に対する昭和四二年一月一五日(本件訴状送達の日の翌日)から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならない。

原告らの被告協和電設、同大建興産に対する請求はいずれも理由がなく棄却を免れない。

訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行および同免脱の宣言につき同法一九六条を適用する。

(裁判官 上野茂)

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